<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2025-5-11<br>更新日: 2025-5-11 </span></p> # スタディ通信:2025年5月号(最終号) 2022年の4月からスタディ通信を書いてきました。『諸相』スタディが始まったのが2020年11月ですので、開始1年半後から今日に至るまで3年間の連載を続けてきたことになります。 [こちらの記事](https://carduelis.page/monthly-report/2025/202502)でも説明したように「スタディ通信」は『諸相』スタディというスタディ・ミーティングの内容を、その場にいない人にも外から大まかに理解できるようにする「月報」として始まり、続けてきました。 私はひとりのAAメンバーとして、閉鎖性や自閉性を嫌います。私たちが受けた神の恵みは今苦しむアルコホーリクに大して大きく開かれており、真剣に求めるならば誰でもその恵みを手にできるものであると信じているからです。 自分たちのステップ12そのものであるスタディ・ミーティングおよびBBSGが「参加者にしか内容が分からない」ものであることを嫌悪しているので、月報などの手段によって開放性を担保しようとしてきました。 しかし同時に、月報という手段の限界は常に感じていました。 たしかに、月報によってスタディ・ミーティングで何が主張されているのかの概略は掴むことができます。しかし、その情報はあまりに断片的にすぎ、読者のステップワークやスポンサーシップでの活用の際、その断片を拾い集めて再統合するという不要な労力が構造上不可避に発生してします。その煩雑さは Keep It Simple. という、AAが大切にしてきた原理からの逸脱でしょう。 その限界を解決するため、ある程度まとまったものを連載という形でまとめたかったのですが、その実力が私にはなかった。 毎月のスタディ資料作成も自転車操業状態、かつ私の体調も回復せず仕事を休職しながらステップ12を続けてゆく不安定さがありました。このようなことは、現在回復している多くのAAメンバーたちがしてきた経験と同じです。 私もAAにやってきて、酒を飲まなくなりやっとこさ今年で6年となりました。この6年間で失業状態から脱して再就職し、徐々にアルコールによる肉体的ダメージも回復し、また動かなかった頭も少しは動くようになりました。 そろそろ私も「月報」というシンプルさに背く手段から離れて、体系的な記事連載に入る時期です。3年間つづけた「スタディ通信」は、今月号でその役割を終え、終了とします。 &#13;&#10; &#13;&#10; <center>・ ・ ・</center> &#13;&#10; さて、では次は何をするのか。 日本のAAでは2000年の改訳を契機として、スポンサーシップやミーティングでビッグブックが広く使用されるようになっていきました。それは12ステップというAAの回復手段が広まるという点で好ましい変化でしたが、**まだ足りないものがある**という指摘もなれていました。その当時の様子を、ひいらぎさんの筆から引用します。 &#13;&#10; &#13;&#10; >その後は日本のAAでも徐々にビッグブックが使われるようになっていきました。例えそれがミーティングで輪読しているだけだったとしても、あの当時から比べれば前進していることは間違いありません。僕は2003年にAAのサービス活動の役割に任じられて評議会に参加しました。評議会は全国からAAメンバーが集まる場なので、会議の他にも様々に非公式な「分かち合い」が行われます。その時にWSM評議員だったN氏から話を聞きました。彼は日本AAの翻訳作業を裏方として長く支えた人でした。 > >彼は改訳されたビッグブックの利用が広がっていることを率直に喜びながら、しかし日本のAAが発展するためには「**あと2冊の本が必要だ**」と強調しました。その2冊はどちらもAAの本ではないだけに、AAの出版関係者の努力ではどうにもならないもどかしさがありました。そのうちの一冊はウィリアム・ジェームズの『宗教的経験の諸相』でした。ビル・Wが霊的体験をした(BB, p.21)翌日にこの本を読み、自分の身に起きた体験を解釈したというエピソードから、この本はAAメンバーが12ステップに取り組むことで何を得ることを目指すのかを明確にしてくれます。岩波文庫で昭和45年頃に出版されましたが(あのパラフィン紙に包まれたやつ!)、この頃には版元品切れの(事実上絶版)状態でした。そこで、復刊を働きかけたり、独自に翻訳を試みるメンバーもいましたが、幸いなことに岩波文庫で重版されて現在は容易に入手可能になっています。[^1] &#13;&#10; ビッグブックはひいらぎさんのBBスタディ・シリーズやB2B、ジョー・マキューのテキストなどの解説テキストがすでに存在しています。残るあとの2つである『宗教的経験の諸相』とカーツ『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』(Not-Got)には、まだそれらをAAと12ステップの立場から解説するテキストが日本では存在していません。 私たち『諸相』スタディは5年間、『宗教的経験の諸相』というテキストに取り組み続け、スタディ・ミーティングを行ってきました。『諸相』を12ステップから解説する記事を執筆し、まとめるのは、私たちに任された奉仕でしょう。 AAは個人を主体とした団体です。AAメンバーひとりひとりに、AAにおける役割(仕事)が与えられています。ある人は会場を開け、ある人は行政を訪ね、ある人は病院を訪ね、ある人は雑誌編集を行い、ある人はコーヒーカップを洗う。そのような一つ一つの自己犠牲によって、AAが成り立っています。 私もそろそろ、自分に与えられた仕事をさらに前進させる時です。『諸相』を12ステップの立場から解説したAAメンバーを、私は世界中で誰も知りません。なので、薮を伐開しながら進む行程になるでしょう。まぁ、仕事というのはいつかそうなるものですので、やっていきます。 &#13;&#10; &#13;&#10; <center>・ ・ ・</center> &#13;&#10; さて、自らに任された仕事を拒否する人はわざわいです。特にAAでビッグブック派(笑)であることを自称しながら、やるべきことをやらないのは。 古くからある宗教の言葉が、そのように自らの現在地に留まり、自らのこだわりや恐れや世界観に安住する人々を批判してきました。 &#13;&#10; &#13;&#10; >しかしあなたがた富んでいる人たちは、わざわいだ。慰めを受けてしまっているからである。 >あなたがた今満腹している人たちは、わざわいだ。飢えるようになるからである。 >あなたがた今笑っている人たちは、わざわいだ。悲しみ泣くようになるからである。 >人が皆あなたがたをほめるときは、あなたがたはわざわいだ。彼らの祖先も、にせ預言者たちに対して同じことをしたのである。 [^2] &#13;&#10; 私もこの呪いの言葉を、現在の私たちビッグブック派に投げかけます。 神が私たちに任された仕事を、あなたがたは放擲して、自らのソブラエティに安住してはいないのか? 自らのソブラエティを当たり前のものとして握りしめ、その恵みを自らのこだわりと自閉性で囲い込んではいないのか? ハイヤーパワーを信じていると公言しながら、あなたがたはAA内外から批判されないことに専心してはいないか? だとすると、あなたがたはわざわいである。あなたがたは、今苦しむアルコホーリクたちよりもはるかに富み、満腹し、笑い、評価されているが、その恵みを握りしめているからだ。 &#13;&#10; &#13;&#10; やはりこれまで無数の批判と呪詛を書き続けてきた「スタディ通信」なので、「いままでありがとう、感謝と共に」なんて小綺麗な終わりかたは許されないでしょう。新しい連載記事は、AA左派であるミーティング・メイカー批判というよりも、ビッグブック派というAA右派を批判する色彩が強くなりそうです。 今後は『諸相』スタディの内容は、新連載で外部に広く体系的に説明してゆきます。ではでは、また新しい記事とスタディ・ミーティングでお会いしましょう。よい旅を。 [^1]: なかやまひいらぎ,「書評 (1) 『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』」, 心の家路, (2025年5月11日取得, https://ieji.org/2020/5257 ). [^2]: ルカ 6:24-26