<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2024-11-20<br>更新日: 2024-12-28 </span></p> # スタディ通信:2023年11月号 とても忙しい1週間が終わり、なんか疲れがどっと出てきています。昼と夜の気温差も激しいですね。 みなさん、いかがお過ごしですか。 --- ### ふりかえり 先週土曜日に『諸相』スタディは3周年を迎えました。 この3年間はいろいろなことがありましたが、何とかここまで続けてこられて正直ほっとしています。続くはずはないと思っていたので。 これも自分を超えた力の導きなのでしょう。 [**シラバス : セッション12**](https://syoso.org/syllabus/session12) さて、先週のスタディはこの1年半の間でいちばんと言っていいほど難しい内容を扱いました。 なぜなら、先週のテーマはダーウィン主義とキリスト教神学の問題、そしてその軋轢と対立を乗り越えようとするジェイムズのプラグマティズムという、入り組んだ思想の流れを扱ったものだからです。 ジェイムズはこのように主張していました。 &#13;&#10; &#13;&#10; > 神の存在の証明は、数百年もの間、打ち寄せる不信仰な批判の大波に耐えてきた。批判の波は、忠実な信者たちの心に、この証明に対する完全な不信の念を植えつけることはできないでいるが、全体から見て、徐々に、そして確実に、その継ぎ目からモルタルを洗い落としつつある。[^1] &#13;&#10; ジェイムズの生きた19世紀は、ダーウィン進化論が引き起こした混乱と対立のなかにありました。 ヨーロッパや米国が依って立っていたキリスト教神学は神の目的論的存在証明をその基礎に持っていましたが、ダーウィン進化論の適者生存と自然淘汰という新しい概念は、「神は目的を持って人を創造した」という目的論を破壊する力を持っていたからです。 中央公論新社『哲学の歴史』8巻にはこうあります。 &#13;&#10; &#13;&#10; > ダーウィンはそれまで全存在の中で特権的な地位を占めていた人間を、自然の内なる生命の進化の過程の中に移し替え、人間にのみ認められた「理性的動物」という独自な存在に疑問を投げかけるとともに、環境と生命との相互作用や適者生存の原理を強調することによって、精神の活動の焦点を理性的、知性的なものから、行動的、生存競争的なものへとずらすことに貢献した。またその進化論は、遺伝を通じた進化の過程が大規模な集団に関する確率的な現象であることを強調することによって、人間を個人的な孤立的存在と見る見方から、集団的・社会的存在として理解する見方への転換を促した。つまり、精神という哲学の中心的主題を、生物であり、同時に社会的存在であるような人間存在の特性という観点から理解する必要を明らかにしたのである。[^2] &#13;&#10; そのような「不信仰な批判の大波」が打ち寄せるなかで、宗教と科学は鋭く対立していました。 その中でジェイムズは宗教と科学の豊かな緩衝地帯を築こうとします。それがパースから受け継いだ「**プラグマティズム**」という概念です。 『宗教的経験の諸相』岩波文庫下巻 p.278以下を読めば、ジェイムズの神学への鋭い批判とともにプラグマティズムの真理論が理解できるでしょう。 ここはぜひ読んでいただきたい箇所ですので、ここで詳しく立ち入らないことにします。 &#13;&#10; &#13;&#10; <center>・ ・ ・</center> &#13;&#10; さて、上記の問題はAAにとっても関係のないものではありません。 宗教と科学の間の緩衝地帯を築き上げるジェイムズのプラグマティズムは、AAにとっても「とても役に立つ」ものでした。 AAの共同創始者ビル.Wはユング博士にこのような文章を書き送っています。 > あなた(ユング博士)の言葉には本当の説得力があります。それは、あなたがまったくの神学者でもなく、純粋な科学者でもないからだと思われます。あなたはこの二つ[神学と科学]の間にある緩衝地帯に立って、私たちと一緒にいてくださるように思います。それは、私たちの多くが自分自身を見出した場所でもあります。[^3] &#13;&#10; <span style="background:rgba(5, 117, 197, 0.2)">神学(宗教)と科学の間にある「緩衝地帯」が、AAがAAを見いだした場所であるとビル.Wは述べます。</span> この宗教と科学の間の緩衝地帯を作る思想がジェイムズのプラグマティズムであり、それはAAの土台としての機能を果たした、と先週のスタディで論述しました。 それはビル.Wが以下のように述べている通りです。 > 私はエンジニアとしての教育を受けましたから、この権威ある心理学者(ウィリアム・ジェイムズ)からの情報は極めて重要でした。精神についての著名な科学者がユング医師の言ったことのすべてを裏付けてくれ、彼の主張を広範囲に立証する本を書いてくれたのです。ですから、ウィリアム・ジェームズは、私や他の多くの人たちがその後ずっと立っている基盤を固めてくれたのでした。[^4] &#13;&#10; このようにAAの歴史を見ていくと、ダーウィン進化論を経た時代において、AAがどのようなスピリチュアリティを求めたのかが理解できます。 それは以下のような本質を持つスピリチュアリティでしょう。 &#13;&#10; &#13;&#10; > これはうまくいく。実に効果がある。[^5] &#13;&#10; さて、次回は岩波文庫下巻「哲学」を締めくくって、「その他の特徴」に入りたいと思います。 「その他の特徴」では、ジェイムズの美しく有用な「祈り」の概念が展開されますので、お楽しみに。たぶん11月よりは分かりやすいはずです [^1]: ウィリアム・ジェイムズ, 1970, 『[宗教的経験の諸相 (下)](https://www.iwanami.co.jp/book/b246799.html)』 桝田啓三郎訳, 岩波文庫, 269-270. [^2]: 伊藤邦武編, 2007, 『哲学の歴史 8』 中央公論新社, 468-469. [^3]: ビル・W, 2024,「#付録C ビル・Wとカール・ユング医師との往復書簡」, 心の家路, (2024年11月20日取得,  https://ieji.org/big-book-study/appendix-c ). [^4]: ビル・W, 2024,「ビル・Wに問う (19) ビル・Wの霊的体験」, 心の家路, (2024年11月20日取得, https://ieji.org/lets-ask-bill-w/lets-ask-bill-w-19 ). [^5]: AA, 2024, 『[アルコホーリクス・アノニマス](https://ieji.org/glossary/bigbook)』 AA日本出版局訳, JSO, 126.