<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2025-2-6<br>更新日: 2025-2-12
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# 論文 : 斎藤学「アルコール依存症患者の行動特性」
著者:斎藤学
雑誌名 : 『健康と病気の行動科学』第1巻
出版年 : 1986年6月
掲載元 : https://www.jahbs.info/journal/journal01.html
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論文中の下記「しらふのアルコール依存症者」像はAAが「ドライドランク」と呼ぶ酒を飲んでいない時のアル中の姿そのもの。
AAで「ドライドランクとはどのような状態か」という理解が共有されなくなって久しいですが、取り戻すべき概念が描かれています。
>**3. しらふのアルコール依存症者**
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既述のようにしらふの時の彼らは、酔っている時とは異なる態度を示すから、彼らに特有の行動パターンを理解しないと有効な介入ができない。筆者はしらふの彼らが取りやすい態度を以下の五つにまとめている。
① **つっぱり**
「自分のことは自分でカタをつけるから口をださないでくれ」という、とりつきにくいかたくなな態度を指す。自らの依存性を否認したところで生じる反動形成的な独自性強調と力の誇示である。
② **がんばり**
抑うつ感、空虚感の否認から生じる過剰適応的態度と軽躁性を指す。断酒初期の患者にみられる「仕事中毒(ワーカホリック)」的な姿勢はここからくる。
③ **わりきり**
強迫的な二者択一的態度を指す。彼らにはひとつの物ごとに善悪をこもごも認め、これを適応的に取捨選択するということが難しい。その結果彼らは周囲の事物や人物をすべて、善か悪か、白か黒かと裁断し、善であるもの、真っ白なものと認めたものについては、これを無批判に取り込んだり、これに依存したりしようとする一方、否定的にとらえたものにたいしては偏狭な拒絶の姿勢をしめす。
④ **ほれこみ**
上記の姿勢が他人へのほれこみを容易にする。このほれこみは多分に自己愛的なものであり、自己の理想自我を他者に投影してこれにひきつけられるという特徴を持っているから、非常に脆くうつろいやすいものである。
⑤ **誇大傾向**
以上の4種の行動パターンを支えているのが誇大自己と誇大傾向という自己愛的人格障害である。アルコール依存症者はしらふの自分を世を忍ぶ仮の姿と考え、自らの「真のパワー」を幻想して生きている。そうすることによって大きすきる依存欲求が拒絶される現実生活の屈辱に耐えているわけだ。