<p align="right"><span class="small-text">公開日: 2024-11-21<br>更新日: 2025-8-5
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# 書評:林研 『救済のプラグマティズム』春秋社
### 読みにくい本、『諸相』
『[宗教的経験の諸相](https://www.iwanami.co.jp/book/b246798.html)』という本は、決して読みやすい本ではないということは[以前書いた](https://carduelis.page/monthly-report/2022/202207)。
そして同時に、AAのミーティングに出ていると「『諸相』を読んだけれど、意味がよくわからなかった」といった悲痛で正直な意見を聞くことも複数回あった。
そんな状況なので、『諸相』というものがAAに対して持つ有用性を分かち合おうと[『諸相』スタディ](https://syoso.org)を1年以上やってきた。そして、スタディをやる中で「『諸相』を読もうとするメンバーにオススメできる本があればなぁ」と常々考えていたのである。
しかし、哲学関係の本だと少し専門的すぎたり、プラグマティズムは扱ってるけど『諸相』を扱っていないなど、なかなかAAとの関係から見て「これだ!」という本に出会えなかった。
### 昨年出たある本
私たちは『諸相』スタディをやるにあたって、いくつか論文を読んできた。その中でとても影響を受けた論文がある。
それは大谷大学大学院(当時)の林研先生の学位請求論文である。そこで平易かつ的確に『諸相』をはじめとしたジェイムズの考え方が科学と宗教の関係性からまとめられており、多くを教えられた[^1]。
そして先日、昨年2021年12月にその林氏が著書を出されていたことを知った。
早速買って読んだところ、『諸相』をはじめとしたテキストに書かれたジェイムズの考え方を学ぶには「こういう本があったらなぁ」とAAメンバーとして**願っていたような内容**であった。
その著作は『救済のプラグマティズム』というタイトルである。
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<img src="ken-hayashi.png" alt="Centered Image" />
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<a href="https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393321058.html">林研『救済のプラグマティズム』</a></div>
私たちもこの本を読むことで、今まで自分が読み落としていた重要なことにも気付かされた。
そしてなにより、「『諸相』は読みたいんだけど、難しくてよくわからない」と言われたときに<span style="text-decoration: underline; text-decoration-color: #ADD8E6; text-decoration-thickness: 4px;">「まずこの本から始めるといいですよ」と差し出せる本</span>が出版されて、とてもうれしく感じた。待ってました、といった感慨である。
### なぜ『諸相』がAAにとって大切なのか
ジェイムズの考え方は、ビル.W自身が述べているように、**ビルがしっかりと履いて歩んだ靴**だ。そして、その考え方から、AAもたくさんの有用性を得てきた[^2]。
なので、その考え方を私たちAAメンバーが学ぶことは、私たちが今苦しむアルコホーリクにメッセージを運ぶ上でとても大切なことだ。なぜなら、それはビル.Wに大きな影響を与えましたし、AAの原理の源流でもあるからである。
私たちの原理はカール・ユング、オックスフォード・グループ、ウィリアム・ジェイムズ等といった多様で豊かな源泉を通じて与えられたものだ。なので、12ステップを理解したいなら、その源流を学ぶ必要があるだろう。
そして、その源流を学ぶにあたって『救済のプラグマティズム』は「**これは役に立つ**」と私たちは自信を持って、12ステップを学ぶ人におすすめできる本となっている。
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最後に、『救済のプラグマティズム』からの引用でこの書籍紹介を終わる。ここでの「**親密(intimate)**」が何を意味するかは、ぜひ『救済のプラグマティズム』を読んでほしい。
> 一方でジェイムズの多元論は、不完全な世界において、われわれ不完全な行為者の間に神がともに参加しているということにその希望を見出す。つまり、一般に神は絶対的であるべきだと考えられがちであるが、経験の事実から見るならば、神に必要な属性は絶対性よりも「親密さ」だというのがジェイムズの指摘なのである。[^3]
### **編集部による書評**
[**科学が浸透すれば宗教は滅ぶ?『救済のプラグマティズム』とウィリアム・ジェイムズの宗教論**](https://book.asahi.com/jinbun/article/14520211)
[^1]: 林研, 2014, 「ウィリアム・ジェイムズの宗教思想」博士論文, (2025年1月13日取得, https://otani.repo.nii.ac.jp/record/368/files/%E6%9E%97%E7%A0%94%E3%80%80%E5%8D%9A%E5%A3%AB%E8%AB%96%E6%96%87.pdf ).
[^2]: なかやまひいらぎ, 2024, 「ビル・Wに問う (19) ビル・Wの霊的体験」, 心の家路, (2024年11月21日取得, https://ieji.org/lets-ask-bill-w/lets-ask-bill-w-19).
[^3]: 林研, 2021, 『[救済のプラグマティズム](https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393321058.html)』 春秋社, 60.